勉強が苦手だからこそ大学に進んだ生徒

勉強が苦手だからこそ大学に進んだ生徒

勉強が苦手だったり嫌いなら、工業高校などから高卒で働くのが良いと私は思います
でも、普通科を卒業した場合、手に職を付けていないので高卒で働くのは正直言って厳しいことも少なくありません。特に勉強ができないというコンプレックスを持ったまま社会に出るのは良くありません。だから、あえて勉強が苦手だからこそ、大学に入ると言うことも時にはあるのです。

中学2年生の秋に、おばあちゃんに連れられてまなびの森にやってきた彼は、いつも威嚇的な目をしていました。
勉強に対してはまったくやる気は無く、やる意味なんてないと言う態度でいたのを、おばあちゃんが見るに見かねて、まなびの森に連れてきたのです。
そんな彼もなぜか小さい頃から続けているソロバンだけは得意で、計算には自信があるようでした。


家庭の複雑な事情で、両親は別々に暮らし、彼は母親と暮らしていたのですが、その環境に耐えられず、父親とおばあちゃんが暮らす家に逃げてきたのでした。
ですから、周囲になかなか心を開くことは無く、私の言葉にも斜に構えてへらへらと笑って聞いている生徒でした。
何か、自分の人生に価値を見いだせないでいるような感じで、将来への夢も持てないでいました。


テストの点はいつも30点前後。
英語は大嫌いだけど、数学は少しだけやる気はある。
国語も分を読むのはめんどくさい。
そんな感じで、中学3年になっても勉強はからきしでした。
高校受験も特にどこに行きたいと言うことも無く、その成績で行ける公立高校に何となく進みました。


高校に入っても、おばあちゃんの意向でまなびの森に継続して通ってくれました。
何をするのも面倒そうにする彼ですが、なぜかおばあちゃんの言うことだけは素直に聴くのです。


高校では、似たような学力層のクラスメートに囲まれて、コンプレックスを感じなくて済むようになったからでしょうか、少しずつ表情が豊かになってきたように思います。
勉強の方も、中学の時よりも関心を持てるようになってきたようでした。
クラブにも頑張って参加し、彼女もできて充実した時間を過ごしているようでした。


しかし、将来のことについては、あまり積極的に考えることはせず、高卒で働く、なるようになる、みたいな態度でした。
彼の通う高校では、そのような将来展望の生徒が多かったことを考えると、そうなるのもやむを得なかったのかも知れません。


私は、そんな彼だからこそ大学を目指し、大卒として社会に出た方が良いと思いました。
そうで無いと、将来のことも考えられないで、何の取り柄もない、支えも無いまま、社会に流されるように生きていくしか無くなると思ったからです。
ですから、高校2年になってからは、毎週のように高校卒業で働くことと、大学を出て働くことで人生がどう変わるのかについて話をしました。
今、ほんの少し、努力をするだけで、残りの人生での損卒がどれだけ防げるのかについて、説明をしました。
今、面白ければそれで良いという生活に慣れてきた彼が、将来について考えて行動をするようになるには時間がかかりましたが、高校3年になる頃には、大学に行っても良いかな?と言えるようになりました。


彼の言葉におばあちゃんはとても喜んでくれました。
そして、枚方に引っ越してきてから、ずっと無愛想だった子が近所の人に挨拶をできるようになって、目つきが優しくなったと言っていました。
多分、諦めずに、彼の人生について一緒に考えて、接してきたことが彼の心を少しずつ開かしてきたのでは無いかと思います。


そして、高校3年になってからは、受験勉強を始めました。
彼はソロバンが得意なので,経理の仕事がしたいと言いました。
なので、英語と数学Iで受験できる商学部、経営学部のある大学で、彼の学力で何とか手が届きそうな処を数校探して、それを目標にしました。


それまで本気で勉強することが無かったので、なかなか勉強ははかどりませんでしたが、それでも彼は食い下がってきてくれました。
途中で父親の借金が発覚して、受験料が学費が払えないかも知れないと言う事態になったときには、彼も絶望し、涙を流していました。
しかし、その問題もおばあちゃんがどうにかすると言うことで、彼は気を取り直して、さらに頑張り始めました。
みんなが応援してくれていると感じたのが彼の支えになったのだと思います。


秋になり、推薦入試の季節になりました。
彼は、少しずつ自分でも頑張ったらできるかも、と言う自信を持てるようになってきました。
そして、もしかして受けるかも?と言う希望を持って3校の受験をしましたが、全て残念な結果に終わりました。


彼も、これにはかなり精神的に堪えたようでした。
やっぱり、あほには勉強なんか無理なんだ,,,
そんな絶望感に包まれていました。


私は、このまま受験を諦めて、高校を卒業したら、それこと何の希望もない人生になってしまうと思い、一般入試に賭けてみようと説得しました。おばあちゃんとも話をして、受験勉強を継続させて欲しいとお願いをしました。


彼も、ここまでやってきたのだから、このまま引き下がれないという思いがあったのでしょう。
後2ヶ月頑張ってみると言ってくれました。


そこからは、授業時間以外も塾に入り浸りで自習をして、頑張ってくれました。
一般入試も4回の受験をしましたが、1から3校目までの受験は残念な結果に。
そして、最後の1校。
これが駄目なら次はどこを受けさせれば良いのか,,,と思っていたところ、彼から電話がなりました。
それは、見事合格と言うことでした。


彼が、電話越しに「ありがとう」と言ってくれました。
多分これが彼がまなびの森に来て以来初めての感謝の言葉だったと思います。


大学では楽しく過ごせていたようです。
時々まなびの森に遊びに来てくれて、近況を伝えてくれました。
そして、大学は4年できちんと卒業して、正社員として就職することもできました。
就職してからも、たまに塾に遊びに来てくれる彼は、どことなく自信に溢れていました。