起立性調節障害のお子さん2

起立性調節障害のお子さん2

高校2年の春にまなびの森に入会してきた生徒がいました。
彼は小学校4年生からほとんど学校には行っておらず、通信制高校に入学して無理のない範囲で通学して学んでいると言うことでした。
入会面談の時に、保護者の方が持ってきたのは、起立性調節障害についての資料。
小学校の時に発症して、原因が分からずに長い間、家族で苦しんできたそうです。
個別指導の教室に親御さんが求めたのは、彼の状態を理解した上で、次の年の受験に向けて進路指導もしながら、それに合った勉強をさせて欲しいと言うことでした。
また、基礎的な学力においても不足しているところがあるので、その面も無理の内容に補って欲しいと言うことです。

 

正直言って、厳しいなと思いました。
何故かというと、本人が早稲田大学の工学部に行きたいと言っていたからです。
親御さんは、その目標が現状から考えると身の程知らずと言うことは良く理解されているようで、進路指導というのは目標の変更を促しながら、着地点を探して欲しいと言うことでした。

 

早稲田大学が絶対無理だと言っているのではありません。
ただ、その為の努力の質と量を考えたときに、次の年の受験にはとうてい間に合わないと言うことです。
なぜなら、その時の彼は通信制高校の課題をこなすことで精神的に精一杯で、空いている時間にそれ以上の勉強を上乗せしてする覚悟がなかったからです。
ずっと学校に通わず、自分のペースで何事もさせてもらってきたので、自分以外の何かに合わせて、自分を律するというのがまだできていないのです。
また、客観的な自分の学力を見たことがないために、早稲田大学と言うのがどれだけの難易度で、自分の学力との隔たりがどの程度であるのかも想像できていなかったのです。

 

ですが、そのことをいきなり指摘したら、全ての意欲を失いかねません。
ですから、少しずつ勉強を進めていきながら、自分の学力を認識して、目標に到達するための努力を自分がやりきれるのかどうかを考えさせて欲しいと言うのが、親御さんの願いです。
とりあえず、英語と数学をがんばりましょうと言うことになりました。

 

一緒に勉強を始めると、取得している単位の科目についても、十分な理解をしていなかったので、高校の始めからのやり直しでした。
実際には中学の内容についても怪しい状態で、数学は連立方程式、一次関数からのやり直しでした。
英語についても、中学3年のまとめの問題集を使って復習をしないと、ほとんど分からない状況です。
でも、本人はそんなことお構いなしに、自分はやればできると言いながらも、家ではほとんど勉強していません。

 

なかなか、厳しい状況だと思いながら、彼のできる範囲で宿題も出して、少しでも家庭でも勉強する時間を取らせるようにしました。
しかし、本人に危機感はなく、暗記すべき事柄を伝えておいても、それを暗記してくることもありません。
やはり、起立性調節障害の影響で、調子が出てくるのが昼過ぎで、勉強に充てられる時間もそれほどありません。
そのような状態でも、本人は現役で早稲田と言うのです。
週二コマの授業では、かなり手強い状態でした。

 

半年ほど過ぎると、本人の中で、このままでは早稲田大学はおろか受験科目の学習自体が間に合わないことに気付き始めました。
勉強のペースを劇的に上げて、早稲田大学受験までにそれ相応の学力を付けるのか、自分のやりたいことをできる大学で自分の学力にあったところに目標を変更するのか、選択を迫られる時期になりました。

 

彼の選択は目標の変更でした。
それでも、正直言って厳しい状態でした。
工学部でロボットの研究をしたいというので、物理と数学IIIが必修です。
しかし、通信制高校の授業では十分な対策にはなりません。
また、週2コマの個別指導では絶対的な指導時間が足りません。
現役で合格をしたいのであれば、本人のペースでの学習ではなく、塾の授業の方がペースを作って、生徒の方がそれに合わせて学習をしなければ、受験までには間に合わないのです。

 

ただ、本人は新しい志望校に進むことについては、早稲田大学と言っていたときとは違う現実味を感じていたので、それを尊重してどうすれば良いかを考えました。
もう夢現の目標とは違うので、とりあえず日々の学習を自分のペースで進めていれば良いというわけにはいきません。

 

その結果として出した結論は、3年からは集団形式の現役予備校にも通うと言うことでした。
なので、2年の終わりまでに数学と英語は該当学年の内容までを個別指導でやりきって、現役予備校の授業について行けるようにすることが目標となりました。
ここから半年ほどは。学習のレベルは本人に合わせながらも、学習ペースは本人のペースではなく、受験スケジュールに合わせるもの変えていきました。
これは本人にはかなりストレスがあったようです。
授業中の笑顔がどんどん少なくなっていきました。
私としては、現役にこだわらず、一年浪人しても良いのではないか?と提案もしたのですが、本人はどうしても現役での進学に拘りがあったようです。
確かに現役で大学に進学させることは、学習塾の使命としては大切なのかも知れませんが、それも、本人がやる気を持ってどんどんがんばってくれてのことです。
余裕を無くしてしんどい顔をしている生徒を無理矢理引っ張って勉強をさせるというのは、何か違います。

 

何とか、2年の終わりまでに、数学と英語は目標の内容まではこなすことができましたが、本人はかなり疲弊していただろうと思います。
そして、春からは現役予備校へと移っていきました。

 

本来なら、学校に行けなかった時期が何年もあるなら、進学や社会に出るのもその分遅らせれば良いのだと思うのです。
二年学校に行っていなければ、2年浪人したら良いと思います。
それを無理に現役で進学しようとすると、その二年分の学習がいい加減にならざるを得ません。
それは、結局大学での勉強での不完全燃焼になり、後々にもっと自分はできたはずなのにと言う後悔になるかも知れないです。

 

まあ、3年学校で学んでいなかったら、きゅっと圧縮して2年で取り戻すことは可能だとは思いますが、それなりに自分を律してがんばれないと難しいです。
長い人生の中の2,3年のことです。
ここで、無理をして、ごまかしたりして、現役にこだわって、不完全燃焼な人生にならないように、大学進学を目標にするなら、じっくりと勉強して受験に臨んで欲しいなと思ったりもします。

 

彼も、2浪を覚悟して勉強するなら、早稲田大学も現実的な学力にまでなれたかも知れません。
それには、勉強以外の世間体や身分の安定という事も覚悟しないといけないのですが、本気の夢があるならば、それは大した事無いと思うのです。

 

逆に言うと、そこまでの本気の夢を持つことが、難しいお子さんが増えているのだろうなと、最近は思います。